こんにちは。S&Tの上村です。昨日もたくさんのお客様にお越しいただきたっぷりとアートを堪能して頂きました。年末年始はお休みで帰省している方などもわざわざS&Tへいらっしゃっていただけるようになり嬉しい限りです。設立当初は考えられない状況です。本当にありがとうございます。🤗

さて、書くこと満載で今頃になりましたが私も大好きな作家のFranz Gertschさんが今月21日お亡くなりになりました。92歳だったそうです。

日本ともゆかりが深い作家で顔料や越前和紙を使った作品も多く遺しています。S&Tでもお馴染みの湯浅 克俊さんが今年Franz Gertsch美術館で個展を開催したのも記憶に新しいところですね。

巨大作品で有名なゲルチュですが、そのアトリエは驚くほど小さなアトリエだったそうです。そしてそのアトリエは常に整然と整理されていたそうです。

死の直前まで制作をしていたということです。本物の芸術家ですね。

ゲルチュの父は歌手でした。その影響で幼い頃にピアノを弾き始め、音楽家を志していました。画家では食べていけないと恐れていたようです。しかし、結局彼は芸術の道を選びました。ゲルチュは絵画とピアノ演奏の間に明確な類似点があると考えていました。目に見える自然は、「ピアノ奏者にとっての音符」のように画家が解釈しなければならないものでした。

彼が最初に成功を収めたのはポップアート的な絵でした。しかし、すぐにそれは自分には合わないスタイルだと気がつき、もっと躍動感のある絵を描きたいと考えていました。そして写真をもとに徹底的に写実的に描く「ハイパーリアリズム」を採り入れ、日常的でありきたりな場面の人々を描く大型作品を制作するようになります。

1970年代半ば、ベルン州シュヴァルツェンブルガー地方のリューシェックにある古い農家に引っ越しました。

そこで転機が訪れます。自然の成長やあるがままの姿が持つ神秘性に、彼は魅了されました。そこでの生活で『この自然が持つ多様性はいかにして成立するのか?』『この構造、この動きを成立させるほどの創造力を持っているのは誰なのか?』と彼は思います。そして、そこの自然はゲルチュにとって大きな存在感を放ち、晩年の作品で中心的な役割を占めるようになりました。

そこでの生活で彼の身の回りにあった自然は彼によって永遠の命を吹き込まれました。彼の作品には日々の散歩で発見した身の周りの植物や森の産物など多く描かれています。彼はのちにこう言っています。『美術館への来場者は作品の前で自分が散歩した時のことを思い出すでしょう。』と。

生命の表現としての自然を視覚的、精神的に体験することは作品のテーマでもありました。彼はただの葉っぱや流れる川の水面と同様に、人間の顔にも関心を持っていました。それは自然の本質であり、彼が作品の中に捕えようとしていたものでした。

Silvia, 2001~02 / Franz Gertsch
木版画
191.5×177㎝

日本では1995年に愛知県美術館で初めてフランツ・ゲルチュ展が開催されました。日本では中々彼の作品を見かける機会は少ないかもしれませんね。

その巨大な木版画はとにかく見るものを圧倒します。亡くなったということでこれから日本でもどこかの美術館が追悼展をやってくれないかなと思います。

私にとっては何年か前にFranz Gertsch美術館の館長といろいろ話したことは記憶に新しいところです。本当に素晴らしい芸術家で『スイスの至宝』と呼ばれるに相応しい芸術家でした。残念です。

ご冥福をお祈りします。

S&Tではゲルチュを偲んでしばらくは他の作品に加えてゲルチュにまつわるものも展示したいと思います。一緒に素晴らしい芸術家の死を偲びましょう。

それでは皆さん本日も良い1日を。