おはようございます。S&Tの上村です。

このシリーズも第3弾となりました。

私がまだ社会に出てまもない頃のお話です。私が初めて担当させていただいたお客様は、

とある企業の社長さんでした。フラッとギャラリーにお立ち寄りいただき、自分のお気に入りの

作品を物色して、これとこれとこれ、と値段も見ないで私に注文していかれました。

世の中にはカッコいい買い方をする人もいるものだと当時感心したものです。

新人の私にはラッキーであり、また緊張するお相手でもありました。

後日、会社の方に届けて欲しいと言われ、その時にお支払いするということでした。

それが事件の始まりでした。

2〜3日後、緊張しながら約束の時間にその会社を訪ね、

作品を取り付けてお茶をいただきながら和やかに社長とお話をしていました。

私は大役が終わり、ちょっとホッとしていました。

お支払いの話をすると、手形でいいかと聞かれ、手形など受け取ったこともない私は、

会社に確認させて欲しいとお願いしました。

そして、会社に電話すると運悪く上司も誰もおらず、どうしようかと一瞬ためらいました。

当時携帯電話など誰も持っていない時代です。あっても、会社所有の肩からかける

平野ノラが持っているような携帯だけです。

私は大丈夫だろうとタカをくくり安易に手形を受け取ってギャラリーに戻りました。

鼻高々でギャラリーに戻ると、社長から『手形はうちは受け付けていないんだ。

だから、お客様に説明して現金か小切手にしてもらってきなさい。』と言われましたが、

お客様に一度オッケー出したものを私のせいでダメだと言うのも物凄く気が重く、

逃げ出したい衝動に駆られましたが、何とか頑張って受話器をあげました。

電話口でお客様はひどくご立腹で、すぐ来いと言われ、私はビビりながらその足でお客様の会社に

戻って行きました。そのお客様に言われたのはこんな感じでした。

「俺はお前を信用して絵を買って、そして、お前に手形で良いかと聞いた時、お前は

オッケーを出したんだ。一度受け入れたものを会社から言われたからハイそうですかと

俺のところに連絡をしてきたお前に腹が立つ。お前はメッセンジャーボーイか?

違うだろう。そこを何とかするのが営業じゃないのか?ん?????」と。

私は頭が真っ白で膝もガクガクし、立っているのがやっとでした。

泣きそうな顔をしながら「はい。改めてもう一度お伺いします。」と言うのが

やっとでした。

その足でギャラリーに戻るのも気が重く、かといって逃げ出す勇気もなく、遠回りして

戻ったのを覚えています。

何だかわからないまま社長に事の成り行きを話し、そして、今回だけ何とかして欲しい

とお願いしました。かなり渋りましたが、幸いにも社長のオッケーをもらうことができました。

ホッとしながらも、お客様と話すのがちょっとためらわれ、

その日は電話だけして後日再度謝りに行くことにしました。

途中からもう何で怒られているのかもわからなくなっていました。笑

次の日、上司を連れて、そのお客様に謝りに行きました。正直もう買ってはくれないし、

買ってくれたとしても担当は外されるだろうと思っていました。

緊張しなくて済むのでどこかでその方が私も嬉しいと思っていました。

そして、いよいよ社長とご対面。

上司が「この度は上村が飛んだ粗相をしまして申し訳ありません。担当も今後変えるので

お怒りをお納めください。」と言うと、社長の返事は意外なものでした。

社長は私をチラッと見て上司に言いました。

「俺は上村君から買ったんだ。そして、上村君がちょっと粗相をして俺が腹を立てたとしても

それはそれ。俺は大人だから担当を変えろなんて言わない。これからもずっと上村君が

担当でやってくれ。」と。

私は胸に熱いものがこみ上げてきて、お辞儀をするのがやっとでした。

心の中では『カッコいい!抱いて!』と叫んでいました。笑

そして、担当が変わって欲しいと願った自分を恥ずかしく思いました。

世の中にはこんなカッコイイ人がいるんだと本気で思いました。

その方とは私が退社するまでずっとお付き合いさせていただき、私を育ててくれました。

本当にその方には感謝しています。

私もそういう男気のあるカッコいい人間になりたいと思っていますが、

実際はまだまだですね。なれる日は来るのかな? 笑

本日は私が出会った男前な人でした。

それでは皆さま今日も良い一日を。